『螺旋ノ彼方』世界観設定集

3 代表神話


(1)創世神話
 古の時、創造神テラレシートは、空と海しかなかった世界の中央に扉を設けた。世界はそこを中心に、螺旋系に無数の島を生み出した。
 それから創造神は、世界の理を創り出した。光はすべての命を包み、育み、邪悪なるものを退散させる。闇は命に安息を与える。水は潤いを、炎は暖を、森は静寂を生み、風は神や生き物の声を世界に届けるという理だった。
 創造神は次に、理に沿って神々を創り出した。髪を留めていた飾りを二つ手に取り空へ投げると、飾りはまばゆい光を放って娘たちを生んだ。片方は燦然と輝く光のような娘、もう片方は穏やかに静まる闇のような娘だった。
「お前は光。これから生まれるだろう命たちを導きなさい。お前は闇。これから生まれるだろう命たちを、安らかな眠りに連れて行きなさい」
 続いて創造神は、左耳の飾りを外して大地に埋めた。大地からは一筋の樹木が生え、やがて上半身が男の姿をかたどった。右耳の飾りを外して息を吹きかければ、飾りはたちまち躍り上がり、愛らしい少女の姿に変化した。
「お前は森林。これから生まれるだろう命たちに、大地の恵みをあげなさい。お前は風。これから生まれるだろう命たちに、様々な声を届けなさい」
 さらに創造神は、左の腕輪を外して海に沈めた。水に沈んだ腕輪はやがて溶け、力強く泳ぎ出した。水中を駆け巡るうちに一人の若者となり、水の中から創造神を見上げた。
 右の腕輪は何もせぬうちから熱を放ち、次いで炎に包まれた。自分勝手に飛び上がった腕輪は、一つ回転したかと思うと、たちどころに少年の姿になった。
「お前は水。これから生まれるだろう命たちを、枯らさぬようにしなさい。お前は焔。これから生まれるだろう命たちを、凍えぬようにしなさい」
 それから創造神は、胸もとを飾る宝石を二つ、そっとすり合わせた。玉の囁きから抜け出た二人の神は、創造神の姿を見るや、たちどころに膝をついた。娘の頬は柔らかな髪に縁取られ、青年の眼は賢そうな光があった。
「お前たちは心。これから生まれるだろう命たちを、間違った方向に行かぬように制御しなさい」
 最後に創造神は、心と名づけられた神々の生まれた宝石を外して両手で包んだ。握り合わせるようにしてからしばらくして、開かれた手のひらの宝石は一つに混じり合っていた。混じり合った宝石は、ひびが入って割れた。
 割れた宝石からは、青年が現れた。漆黒の髪と眼を持った、美しい青年だった。
「お前は無。破壊による無。しかしそれは刹那ではない。なぜならお前の無は、有へ還るから」
 創造神の指が一つ、鳴った。途端に青年の姿が代わり、白銀の髪と目になった。
「お前は有。再生による有。しかしそれは永遠ではない。なぜならお前の有は、無へ還るから」
 創造神は告げて、神々を見回した。
「世の理に背かず、世の理に背かせず、必ずやこれから生まれるだろう命たちを守り、導いておくれ」
 創造神の声は空へ通り鳥となった。また海に落ちた声は水蛇となった。それに気づいた創造神は、その二匹を呼び寄せてこう言った。
「お前は空を、お前は海を守り、神の子らを導く役を手伝いなさい」
 かくして神々は創造され、『護ル者たち』も生まれたのである。

※注 以上が序章部分にあたる。この後神々は、創造神よりそれぞれが道具を授けられる。
 クシイには大剣。ミューには杖。ファイにはミズノキの枝。ヘクトには碧玉の横笛。シータには水の湧き出る杯。ゼプトとシグマには一対の玉。シュラノカミとリンネには道具ではなく、胸もとに印を。
 ウプシロンにはふいごが与えられようとした際、ウプシロンはそれを辞退した。彼が生まれたときに発生した焔が、創造神の肌に火傷を負わせてしまっていたからだ。そのことを悔いたウプシロンは「かせをつけてほしい」と言った。創造神はそれを承諾したが、彼が焔の持つ恐ろしさを知っての発言にいたく感心したので、不便なかせではなく、鎖を足に巻いてやったという。
 神話は神々によって実に多彩である。残念ながらこちらでは書き切れないため、割愛させていただく。

(2)『千年戦争』(狩人サーヴェルの英雄譚)概要
 時は流れ、人間がよくも悪くも蔓延し始めた頃――人間の持つ欲望を管理し、最小限に抑えていた神ゼプトが、突如として反旗を翻したのだった。後に邪神と呼ばれるようになったゼプトは、人間の持つ欲望を増強して手駒とし、他の神々に戦いを挑んだのである。
 光の神であり、残る神の指導者となった女神クシイは、その過ちを正すために立ち向かった。戦いは千年もの間続いた。神々は守るべき人間を傷つけることができず、一人、また一人と捕らえられ、とうとう女神ただ一人となってしまった。女神クシイは今にも尽きそうな力を振り絞り、人間の中で唯一戦いに参加していなかった青年を見つけ出した。サーヴェルという名の心優しき狩人は、クシイの頼みを聞き入れ、神々の力をその体に宿し、邪神と戦ったのである。
 最終的に邪神の封印に成功し、サーヴェルはクシイに神ノ国へ来るように希望されたが、彼は人間として生きることを選んだという。神々は囚われた際に失われた力を取り戻し、世界は再び繁栄した。サーヴェルは聖ノ国の初代聖騎士となり、生涯を人のために捧げたという。

(3)『千年戦争』に語られなかった物語――『イユクの伝説』、宿シ身ノ民に伝わる伝承
 草ノ国に生きる先住民族『宿シ身ノ民』に伝わる伝説では、千年戦争に描かれていなかった人物の存在がうかがえるらしい。それが破壊神シュラノカミを宿されて暴走し、英雄サーヴェルの手にかかり命を落としたという女性である。その名をイユクと呼ぶようだ。イユクは『宿シ身ノ民』の始祖であるが、彼女の骸から現在の民が生まれ出でたという。
 以上の情報は、数年前に民の集落を訪れた学者より引き出したものである。それ以外のことは依然として分かっていない。



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