時のチカラ 運命のイト

〜TYPE:L NO.2〜

 


「居所を遂に見つけましたよ、『ウロボロス』リュネー……」
 美しい光を放つ水晶の里。巨大な魔水晶に守られるような形の場所。神聖な雰囲気のその場所に、今は無数の血の跡があった。べったりとこびり付いた血は、家や水晶に赤いペイントを施したようである。そこに倒れた人々を数人の男達が次々と運び出す……
 半人半蛇の『ウロボロス』。ここは世界中からその力をねらわれていた彼らの隠れ里だった。青年はゆっくりと足を踏み入れ、辺りを見回す。
「抵抗した者はかまわん、殺せ。死体でも少しは魔力を取り出せる。ムダにするな」
 口元に笑みを浮かべ、彼はなおも足を奥に運ぶ。途中、隠れているつもりなのか、家々の陰から蛇のしっぽが見えた。そしてそこから押し殺した声でリュネーを罵る声。家の前を過ぎるたびに罵る言葉が聞こえた。
(同族にも疎まれているのか、哀れな奴……)
 ふん、と鼻で笑い、先へ進んだ。あれらの始末は部下がしてくれる……。彼は立ち止まった。足下に『ウロボロス』族長と思われる者が転がっている。その少し奥にその妻が横たわっており、もう既に死んでいた。
「族長……リュネーを出しなさい。あれを渡してくれれば、生き残っている者達に手出ししません」
 族長はうめき、青年を見上げる。
「無駄……だ。あれの力……は、誰にも……せ、制御できぬ……」
「渡す気は、無いんですね?」
「……当然、だ。皆が……望んでも……私が、許、さぬ……」
「そうですか、それは残念。ところで、貴方の娘と息子……テュルンとヴィレはどこに行きましたか?」
「言う……ものか……」
「そうか……本当に残念ですよ」
 部下が、息子のヴィレには手負わせたが逃げられたと叫んでいる。テュルンの方は見つからなかったようだ。
「深追いをするな、死体を回収しろ!早めに本部へ送るんだ、腐ると魔力どころの騒ぎじゃなくなるぞ!」
 指示をしてから、彼は剣を抜き族長の体を貫いた。アメジスト製の剣が長の血で赤く濡れる。生きていた方が魔力はとれるが、そんなのはリュネーから取ればいい……。
「カミル隊長!リュネーがいません!!」
「はかられたな。ふん……」
 青年……カミルは剣の血を拭い、にやりと笑った。
「面白い。私を楽しませろ、リュネー。お前の魔力、いつかは私の手に……」

 ウロボロス狩りから族長の計らいで逃れたリュネーは、行方不明となった族長の息子ヴィレと娘テュルンをここ数ヶ月の間探し続けていた。だが未だ彼らの消息はつかめず、追っ手も増える一方だった。
 右目がうずく何十回目の満チ月の頃、彼は名も無き森の中に一人で野宿をしていた。剣を木に立てかけ、ため息をつく。
 力の暴走はひどくなり、右目を失ったことで力の制御が以前より厳しくなった。顔の右側の紋様が消えなくなり、包帯で隠すしかなかった。力を使わないように剣を持つようになったが、魔力の剣故、作る際にとある地の一部を消し飛ばしてしまっていた。
(ヴィレ様、テュルン様……)
 彼らの家族だけが自分を嫌わなかった。彼らの傍にいるだけで安心できた。それなのに、何故。また、一人になってしまった……。
 と、唐突に甲高い叫び声が聞こえた。まだ幼い少女のものだ。 
「仲間、か……?」
 低く呟いて、リュネーは走り出した。彼のつけているピアスが月の光を受けて輝く。剣を片手に飛ぶように走る。まとめた黒髪が尻尾のようになびいた。
 目的地に着いたリュネーが最初に見たのは、血まみれになって倒れている少女だった。淡いプラティナ・ブロンド、天照国風の衣装、片方にしかない小さな翼。
(天使の、極刑か)
 足音を立てずに近寄り、膝をついて様子を見る。死んではいないようだ。右手に力を集中すると暴発しかねないため、左手に意識を集中する。この傷の部分のみ時間を早め傷を治す、ウロボロスの持つ時の力を利用した一種の治癒魔法である。白い光が少女の傷にまとわりつく。右目が鋭く痛み、汗が噴き出た。
 傷の治療が終わり、リュネーは小さく喘ぎながら右目を包帯の上から押さえた。制御できない力が痛みとなって荒れ狂っている。
「はぁ、はぁ……くっ……くそっ……」
 右手が熱い。力を解放しなければ、この痛みは取れぬ。しかしそうすれば、この娘共々消し飛ばしてしまうだろう。リュネーが苦しんでいると、少女が目を覚ました。

〜出会い に続く〜



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