悪霊退散死神仕事!!

No.1

 

 俺、鈴木竜介!ピッチピチの高校一年生さ!この学校に入学してから早二ヶ月。部活動を中学の延長、剣道部にして日々練習に励んでいる。何で剣道部なのかって?ふふふ……それはなぁ……
鈴木!何をしている!!素振りが終わっていないぞ!!」
「ひゃあぁっ!!は、はいっ!!すんません部長!!」
 ……部長の神楽禊(かぐら みそぎ)先輩みたいになりたいからさ。禊先輩は確か水神流っていう剣術流儀を継ぐ人なんだそうだ。しかも家が居合いと剣道の道場をしている。噂によると、小学生の時に大人に混じって全国大会を制覇しちまったって……小学、中学と一緒だったけど、そんなことちっとも知らなかった。
鈴木!!
「す、す、すんませーん!!!
 禊先輩が眉間にしわを寄せてため息をつく。言っちゃ何だけど、先輩は目つきが悪い。右のほっぺに傷があるし、無口だ。もちろん一番強いし、部長だから誰も逆らえない。
 ……でも!だからこそ俺はあこがれたんだ!!
「鈴木」
「は……え?」
 気がついたら、禊先輩の顔がかなり近くにあった。額に手が当てられる。かなり動いてるはずなのに、先輩の手は冷たくて気持ちよかった。
「熱がある。今日は帰っていいぞ。……道理で様子がおかしいわけだ」
「え……でも」
 そう言われてみれば頭がぼーっとしてるかも……。副部長の梅宮和俊先輩が俺を支えてくれる。
「禊がああ言ってるんだし、ね?」
「はぁ……じゃあ」
 言われるままに、俺は帰り支度を始めた。
 な……情けねぇ……折角の楽しい部活が……熱で台無しだぜ……!あ、でもあこがれの禊先輩が心配してくれて……嬉しいかも……

 鍵を開けて家にはいる。両親は夜遅くにしか帰ってこない。部屋のドアを開けようとしたとき、俺は確かに感じ取った。誰かいる。まさか……泥棒!?
「おいっ!!誰だ!?」
 熱があるのも忘れて、俺はドアを蹴り開けて駆け込んだ。女の子の悲鳴が上がる。……ン?女の子!?
 改めて机の上をよく見てみた。ピンクの髪に尖った耳、黒い服の女の子が、顔を隠していた。
「あ……の?」
 女の子が顔を上げた。オレンジがかった黄色の目が俺を見る。身長が俺の肘の長さまでしかない。そしてその子は口を開いた。
「あんた……あたしが見えるの?」
「?おう……」
 女の子は何かを決心したように俺を見上げると、名前を名乗った。
「あたしはヘルル。幽界(あのよ)から派遣された死神よ。あんたは?」
「お、俺?俺は鈴木竜介……って、え!?死神だって!?
「そうよ。まだ半人前だけど」
 死神ってあの、でっかい鎌持って人の魂奪いに来るって言うあの死神かよ!?もしかして俺の魂を奪いに来たのか?
 女の子……ヘルルは俺の思考を読んだかのように素早く遮った。
「あ、誤解の無いように言っておくけど、あんたが想像してるのとは全然違うんだからね!あたしは現世(このよ)にとどまっている悪霊を捕らえて連れて行くために来たのよ」
 ……どうやら命を取られる心配はないようだ。でも、いまいちよく分からない。俺の顔に出たらしく、ヘルルは親切にも説明してくれた。
「あのね。死神って言っても二種類いるの。一つは、あんた達がよく想像する、人の魂を奪うタイプ。これはごく数人の選ばれた者しかできない仕事なの。……まあ、仲間内からも嫌われてる仕事だから、選ばれても嬉しくはないわね。で、あたしが今見習いをしてるのがもう一つのタイプ。現世で何らかの害を与えている悪霊達を幽界に連れて行くの。鎌で霊達の悪意とか、恨みとかを断ち切って未練を無くすの。一人前なら危険も少ないから一人で平気なんだけど、半人前の場合は危険だから現世の人間とパートナーを決めなくちゃいけないの。あたし達が見えるのはごくわずかな人だけ。ここに来る前に何軒か家を回ったんだけど、誰もあたしが見えなくて……あんたが見えてくれて助かったわ」
 ヘルルの小さな手が俺の手をガシイッ!!と握った。
「もう決めた!!あんたがあたしのパートナーよ!!嫌って言っても無駄、しっかり手伝ってもらいますからね!!」
「な……何いいィィいイいいいッッ!!?
 何故……何故そうなるんだあぁ!!?苦悩する俺をよそに、ヘルルは何かを差し出した。細長い棒だ。小さい。
「はいこれ。あたしのパートナーなんだから、持っててちょうだいね」
「ん?何だこりゃ……おわっ!?」
 俺がそれを手にした途端、それが伸びた。これは……鎌!?おいおい、マジかよ……!?これは夢だと思いたかったが、ずっしりとした鎌の重さと、ヘルルが強く握ったためにひりひりと痛む手の皮が夢じゃないと言っているようだった。
「……で、これ。どうすんだよ?」
「簡単よ。あんたが望む形にすればいいの。……そうね、それなんか良くない?」
 ヘルルは、俺が必死になって担いできた竹刀袋を指差した。
「その中に入れちゃえば、持ち運びは便利だし、ばれないわ」
「竹刀……にか?でも……出来んのかよ?」
「それはもうあんたのモノだから、出来るわよ」
「へー……お?おおぉおー!
 一瞬目を離した隙に、鎌は竹刀になっていた。でもこれだと本物と区別つかねーよなぁ……木刀の方がいいかもな。そう思った直後、竹刀は木刀に早変わりした。
「すげーすげー!!!」
 純粋に感動しちまったぜ。くっ。
 ヘルルが手を差し出してにっこり笑った。
「よかった。あんたとならきちんとやっていけそうだわ。よろしくね、竜介!」
「おー、こうなったらやってやらぁ!仲良くしようぜ、ヘルル!」
 熱なんかどっかにふっとんじまったぜ。俺はちっちゃなヘルルの手を潰さないように握った。

* * * * * * * * * * * * *

「……ねえ、竜介」
 学校の廊下で、ヘルルが鞄から顔を出して話しかけてきた。どうやら俺以外には誰にも見えないらしい。声も聞こえないことが分かった。
 ……でもなぁ、そこから話しかけられちゃあ困るんだよ!!ブチブチ独り言言ってる、アブねえ奴になっちまうんだよ!!!
 俺は手で『出てこい』と合図し、小声で返事をする。
「何だよ」
「この学校……死霊のニオイがする」
「そうか?そんなニオイどこにも……」
「違うって!あたし達だけにしか感じられない気配みたいなもののことをいうの。この学校……どうしてこんなに……?ねぇ、何か変な噂とかある?」
 噂ねぇ……そう言えばなんか……
「七不思議があるか……」
「七不思議?詳しく教えて!」
「おう。でもここじゃダメだな」
「どうして?」
俺が怪しく見えるからだ

 俺は部室の裏にやってきた。ここなら誰もいないし、まだ部活は始まっていない。
「さて……と。七不思議な。ここ最近噂になってるんだ。『七不思議を全て知った者は、学校の主に殺される』って言う……」
「学校の……主?怪しいわね」
 ヘルルがふよふよと俺の前を行ったり来たりする。
「面白がって全部調べた奴がいるのさ。そしたらそいつが次の日首切られて死んでるのが旧武道館で見つかったんだよ。全校集会で話された。……それ以来、何故か調べたがって死ぬ奴が後を絶たない。面白半分で命落とすなんて、アホ以外の何者でもねぇぜ」
 何でそこまでして知りたがるんだか、全く……俺はごめんだぜ、そんなアホらしい死に方。
「竜介。……その七不思議の内容、教えて」
「いや……実は俺も知らねぇんだ。部活一筋で、他の奴の噂になんか興味なかったんだ。……聞いてみるか?先輩に」
「うん」
 俺は腕時計を見た。そろそろ時間だ。ヘルルには待つように言ったが、見たいと言って聞かない。仕方なく連れて行くことにした。
 着替えにはいると、中では禊先輩と梅宮先輩、それに綱元裕紀先輩がいた。……え?何で禊先輩だけ名前で呼んでるのかって?まあ、昔のよしみだよ。細かいことは気にすんな。
「先輩方、ちーっす」
「お、鈴木君早いねぇ。感心感心」
「よお鈴木。お前の顔見て思い出したんだけどさ、お前いつも禊だけ名前で呼んで、俺達名字なんだ?」
 先輩にまで質問されてしまった……そんなに気になんのかな、これ……
「小中学で一緒だったんです。その時から俺のあこがれでした!」
 ヘルルがクイクイと俺の袖を引っ張った。ちらりと視線を流すと、何かを指している。見てみる。禊先輩と目があった!かすかに首を傾げて、こっちを見ている……まさか……見えてる?
「あっ……と。禊先輩、何ですか?」
「……何か……見えるような……」
 ヘルルがサッと俺の陰に隠れた。一方禊先輩は目をこすったりしている。梅宮先輩がその頭をぽんとたたいた。(禊先輩はこの三人の中でも背が一番低い……とはいえ、俺よりも頭一つ分高い)
「何にもいないよ。……にしても……遅いなぁ、他の人たちは」
「俺らが早いだけだろ?……ん?何か聞きたそうだな、鈴木」
 そうだそうだ、すっかり忘れてた。
「突然ですんませんけど……七不思議のこと、知ってます?」
「あ、僕知ってる」
 梅宮先輩がにこやかに笑って言った。
「とはいえ、僕も六つしか知らないけどね……えーと、笑う銅像、血が出る蛇口、それから泣き声の聞こえるトイレ。後は呪われた多目的室、十三日の金曜日に紅い足形の残っている階段、開かずの倉庫。あ、ユー。他に知ってるかい?」
 綱元先輩は冷や汗をかきながら首を振った。
「俺も……それだけだよ……ハハハ……」
 袴の帯を縛って、禊先輩はこっちを見た。ヘルルが見えてるのかな、やっぱり……。やべぇやべぇ。
「ありがとうございました、先輩」
 これだけ聞ければ十分だ。後は詳しそうな女子部員にでも聞けばいい。俺は愛用の竹刀を抱え、先輩方と武道館に向かった。

「え?七不思議?うん、知ってるよ」
 部活終了後、俺(とヘルル)は何人かの女子部員に尋ねてみた。やっぱり噂が好きなのは男より女、メチャメチャ詳しかった。が、大体の内容は梅宮先輩に聞いたものと同じだった。
 でも、たった一人だけ違う内容のことを教えてくれた子がいた。宮川って言う、俺のクラスメートだ。
「えっと……私も六つしか知らないけど……開かずの倉庫、呪われた多目的室、笑う銅像、血の出る蛇口と・・後、首無し部員のいる旧武道館……」
「えっ、首無し……?」
「うん……」
 これで七つ。旧武道館と言ったら、ここの隣にある半壊の所だ。取り壊しが決まっているんだけど、何故か事故が絶えずに放置されている。
「そっか……ありがとな、わざわざ」
 手を挙げて別れた。俺が着替えに入ったときには、もうほとんどが帰っていていなかった。
「七つね。学校の主……いったい何なのかしら?」
 ふわりと宙返りをして、ヘルル。その後きょろきょろと辺りを見回して、俺の袖を引く。
「ねぇ、一回帰って、それからまた来ましょう?」
「へーへー」
 竹刀を袋に入れて、改めて中の木刀(鎌)を見る。それでちょっと考えてみた。ちょっと待て……?これって初仕事って奴じゃねえか?しかも会った次の日にすぐかよ!唐突すぎねぇかおい!心の準備すら出来てねぇっつの!!
「大丈夫よ。今日のあんたの態度見てたけど、あんた筋がいいから絶対平気だって」
 いつの間にか口に出ていたらしく、ヘルルが俺の鼻先に鎌を突きつけていった。

 夜十時。校門を乗り越え(本当はいけないぜ)中に入った。校舎の方を見て、ヘルルが言う。
「ニオイがしない……?変ね、ここまで感じたはずなのに……全部のニオイがあっちから……」
 ヘルルの黒い服が見えない。派手な色の髪の毛だけが頼りだ。(ヘルルには内緒だぜ?怒られるからな)
「…… …… ……!あれは……!」
 半壊の不気味な武道館から、ぼうっと光が漏れていた。
「すごい死霊……七不思議を知った生徒のものも感じる……その子達の魂を食ってあんなに大きくなったのか……被害が大きくなるかも……」
「どういうことだ?」
「死霊は仲間を引き寄せたがる……きっとその辺にいた死霊が集まって来ちゃったのね。更に、集まった霊はより強くなるために弱い霊を食べる……この繰り返し。そしておそらくは……」
 よく見ると、知った顔がいくつか見える……。首だけの生徒達が、真ん中にいる何かの周りに漂っている。恨みがましい目で俺の方を見ていた。
「……真ん中にいるのが……学校の主かも……」
 そいつが振り向いた。首がない!七不思議の最後の・・首無し部員か?しかもそいつが学校の主!?
「竜介!来る!!」
 ぶわ、っと風が起こった。首達が一斉に飛んでくる!ヘルルを見ると、鎌で次々と首を斬り倒している。すると首は光の玉になって、ヘルルが持つ鳥カゴみたいなものに入っていった。
「きゃっ……!数が多い……!!」
 俺はそこでピンと閃いた。あれが親玉だっていうんなら、そいつをたたけば万事解決!
「ヘルル!後頼むぜ!」
「え!?ちょ、ちょっと竜介えぇ!!どうしてくれんのよおぉおっ!!!
 俺は木刀をひっつかんで飛び込んでいった。首無しが腕を振った。あれは……刀!?しかも本物らしい。そして俺の行く手に、首だけの霊達が立ちふさがる!
「邪魔だーーー!!!」
 面の要領でそいつらに太刀を浴びせる。首は光の玉になって散っていった。気持ちいいぜ!でもそう喜んでいられない、奴が刀を手に打ち込んでくる!!
「おわっ!くく……っそおぉぉおお!!
 鎌で受けて跳ね返す!うぅ、手が痺れた……でも負けてられねぇぞ!
おりゃあぁああぁ!!胴――――」
 構えた。受けるつもりだ。よし、引っかかったな!!
「―――と見せかけて、小手ぇーーーー!!
 パァン!小手あり一本ー!決まった!!光が次々と消えていく。ヘルルが息を切らせてよろよろと飛んできた。
「ちょ……あんた……!」
「おーヘルル!やったぜ、大ボスをよぉ」
「ほんとに!?……あ、ねえ見て。悪意を断ち切ったから、本来の姿になったわ」
 ありゃ?首無しがいつの間にか首有りになってやがる。気の弱そうな、俺ぐらいの奴だった。
「何か言いたいのね。まだ未練があるの?」
『……僕……ここで初試合するはずだったんだ……でも……その前に三年生のこと……練習試合で負かしちゃって……三年生が怒って……』
「お前を……!?」
『う……うん……』
「それで……どうして工事の人とか、七不思議知った人とかに危害を加えたの?」
 そいつはうなだれて、蚊の鳴くような声で言った。
『怖かったんだ……僕は何もやってないのに……』
 なるほどね。つまり、初めての練習試合もやらずに死んじまったこいつは、それだけ思いが強いって事か。……よし、鈴木竜介、一肌脱いでやろうじゃねぇか!
「おいお前!俺が一つ勝負してやらぁ!!」
「ちょっと竜介……ムグ」
 ヘルルの口を押さえて、俺は胸をたたいた。
『え……でも……悪いよ』
「いいっていいって!よーし構えろ!正々堂々やってやるよ!!」
『う……うん!お願いします!』
 俺がその思い、きっちり受け止めてやるぜ!

 十分経過した。勝負がつかない。さすが三年をぶっ飛ばしただけある、一筋縄じゃあいかないな……でも俺だって負けていられねぇんだよ!
「行くぜぇぇー!!」
『うん!』
 相手が踏み込む!俺も踏み込む!この一撃で終わらせてやるぜ!!
「面ーーーー!!」
 相手の面をたたく音がした。勝った……!見ると、笑ってる。
『ありがと……これで……思い残しは……無いよ……』
 ヘルルがカゴを開けた。そいつは光の玉になって、その中に吸い込まれていった。
「ふー……これでいいわ。この子が原因だったみたいね。あの死霊のニオイは、死してなおさまよう学校の生徒達だったみたい。帰りましょ。あたしはこれを霊界に届けなくちゃいけないの」
 そう言った後、ヘルルは思い出したように呟いた。
「……あら?じゃあ……残りの六不思議はいったい何だったのかしら……?」

* * * * * * * * * * * * *

「えぇっ!?残りは全部デマぁ!?
 梅宮先輩が何故か深刻な顔をしてうなずいた。
「うん。笑う銅像はただの落書きで、血の出る蛇口は水が鉄分を多く含んでいただけだって。泣くトイレは中で用務員のおじいちゃんが昔をしのんで泣いてて、多目的室は用務員のおじいちゃんがまさに多目的に利用してたんだ。階段はそのおじいちゃんのいたずらで、開かずの倉庫はそのおじいちゃんが鍵を壊しちゃったからなんだって」
「よ・・・用務員のジジイ〜〜!!?
 あの半ばボケかけてるよぼよぼのジジイ(推定八十二歳)かよ!?くっそー、あのジジイ……!洒落になんねぇよ!俺の苦労はいったい何だったんだ!?恥をしのんで聞き回った俺がアホみてぇじゃねぇか!!
「ざ……残念ね……ぷぷ……」
 あ!!ヘルルてめぇ笑うな!!笑うんじゃねぇってば!!ちくしょーーーーー!!!

No.2に続く〜

……えー、心霊現象大嫌いな緑生翌檜が送る、
『悪霊退散死神仕事』……始まってしまいました。(謎)
これをパソコンで打っていたら後ろから相棒がいろいろ言っていたのを思い出します。
そして誤字訂正や修正もやってくれました。感謝。
やってもらいながら一言彼女が言った言葉は。

「これ……第一話以外はいらないと思うな……後つまんないよ。一話だけで十分だと思う」

それを言うなよ!!!! その通りだけどさぁ!!!
ごもっともなつっこみが入りまして。いや……だってせっかく禊先輩がいるんだし……(謎)
オフラインではとても人気のある彼。目つき悪いけど……可愛いんだそうです。
相棒にもういらないと言われた続き、読みたいという物好きな方は続きをどうぞ……
感想やイラストなんか下さると喜びます。いや本当に(何が言いたい)


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