泪濡るる花々の聲
-ナダヌルルハナバナノコエ-

プロローグ


 この世界は、昼と夜に分けられる。
 昼は秩序。太陽の光を浴び、形成されたルールに守られる、平穏な世界。
 夜は混沌。月の光の下では無秩序が跋扈し、狂気と暴力が全てを支配する世界。
 秩序の元に暮らす人は、定められたルールの下で生きている。
 混沌の元に暮らす人は、己の定めたルールの中で生きている。
 そのどちらにも暮らす人は、互いのルールの通りに生きている。

 昼と夜、全く異なる世界だが、忘れてはならないことがある。昼と夜を、完全に分かつことはできないということだ。昼にとっての夕方のように、夜にとっての朝のように、必ずどこかに継ぎ目がある。必ずどこかで一つになっている。
 昼と夜、二つの時間があって初めて、一日は成り立つ。秩序の世界と混沌の世界、二つの世界があって初めて、一つの社会が成り立っている。そのどちらが欠けてしまっても、社会はバランスを保てない。

 忘れてはならない。昼と夜を切り離して考えることはできないということを。一日はまるでコインの裏表のごとく、丸ごと一つの社会なのだということを。

 忘れてはならない。一つの世界の中にある、二つの世界の存在を。二つの世界に支えられる、一つの世界があるということを。

(初回:2006.6.29 最終訂正:2008.10.23 更新:2009.1.9)

露忘る花(1)


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